「ホットコーヒーお待たまたせいたしました～」
　そういいながら営業えいぎょうスマイルでウエイトレスさん、
　・・・今いまはサーバーやウェイトパーソンと呼ばよばなければいけないだろうか───
　が二に杯はいのコーヒーを給仕きゅうじし、忙しいそがしそうに厨房ちゅうぼうへ戻っもどっていった。

「それで、この後のちのグラビア撮影さつえいについてなんだけど──」
　俺おれはテーブルの向かいむかいに座るすわる、透明とうめい感かんのある金髪きんぱつの少女しょうじょにビジネストークを続けるつづける。
　彼女かのじょの名前なまえは『奥おく空そら心しん白しろ(おくぞらこはく)』、今回こんかい立ちたち上げあげたプロジェクトよりデビューした
　絶賛ぜっさん売り出しうりだし中ちゅうのアイドルだ。
　15歳さいでありながら目めを引くひくプロポーションと
　難易なんい度どの高いたかいダンスを一度いちど見みただけで踊りおどりうるような才能さいのうの持ち主もちぬしである。

　一いち通りとおりの打ち合わせうちあわせ終えおえ、コーヒーを口くちに含みふくみ腕時計うでどけいを一瞥いちべつした時とき、
「プロデューサーさん、プロデューサーさん♡」
　静寂せいじゃくとは言えいえない店舗てんぽの中なかで、俺おれだけに聞こえるきこえるような彼女かのじょのかすかな声こえに前まえを向くむく。

　──桃色ももいろの衝撃しょうげきが俺おれを貫いつらぬいた。

　心しん白しろは白いしろいワンピースの前まえを開けあけ、下したに着きていたピンク色ぴんくいろの水着みずぎをはだけさせていた。
　幼いおさない子供こどもがアルミできた豪華ごうかなお菓子おかし箱ばこの中なかに隠しかくしたコガネムシを見せるみせるような表情ひょうじょうで。

「ぶぇあっ」
　とコーヒーを吹きふきこぼしそうになるのをこらえながら単語たんごにならない声こえを出すだす。
「な、な、な、」

「今日きょうは水着みずぎ撮影さつえいって聞いきいて下したに着きてきてたんです♡」
「皆さんみなさんと一緒いっしょに水着みずぎを選びえらびに行っいったときに、男おとこの人ひとってこういうの好きすきだって聞いきいて♡」

　誰だれに聞いきいたのか、いや、複数ふくすうの事務所じむしょからアイドルを
　集めあつめてくるという特殊とくしゅな形態けいたいをとった『プロジェクトルミナス』の中なかで
　横よこのつながりが強いつよいのはこちらとしても助かるたすかることだと思いおもいつつ、

「いや、水着みずぎはカメラマンやスタイリストの方ほうに選んえらんでもらんだものを着るきるから」
　思考しこうがクリアにならないまま言葉ことばを発しはっした結果けっか、一番いちばん伝えつたえたい言葉ことばをつむげない。

「え？そうなんですね・・・」
　輝いかがやいた顔かおから一転いってんしょんぼりとした表情ひょうじょうになる彼女かのじょ
　この子こはいろいろな表情ひょうじょうが絵えになるなぁとまた片隅かたすみで思いおもいつつ、

「って公衆こうしゅうの面前めんぜんで肌はだを出すだすなんてことしちゃダメだぞ！」
　なんとか言いいいたかった言葉ことばで、ほかのお客おきゃくさんに注目ちゅうもくされないように小さなちいさな声こえでたしなめる。
　こんなところを見みられたら、と必死ひっしな俺おれに対しにたいし、涼しいすずしい顔かおをした彼女かのじょは──

「こういうことするのは、プロデューサーさんにだけですから♡♡♡」

「///」
　といたずらっぽい表情ひょうじょうでまた笑顔えがおを見せるみせる。

「とにかく、もうそろそろスタジオ向かうむかうから！」
「わかりました」
　その天使てんしでもあり小しょう悪魔あくまでもある表情ひょうじょうから逃げるにげるように伝票でんぴょうを手てに取りとり俺おれは立ち上がるたちあがる。

　レジで小銭こぜにを支払いしはらい、カランカランとなるドアをくぐる。
　まだ眩しいまぶしい太陽たいようの光ひかりを感じかんじながらすぐ後ごをついてくる心こころ白しろを待つまつ。
　
　彼女かのじょを車くるまの後部こうぶ座席ざせきに乗せのせ、走り出しはしりだした俺おれは、そうはいってもグラビアには載らのらない彼女かのじょの水着みずぎと
　親愛しんあいからくる彼女かのじょの行動こうどうを反芻はんすうし、複雑ふくざつな満足まんぞく感かんのようなものを感じかんじていた。

終わりおわり